多汗症(たかんしょう)は、単なる「汗かき」という体質ではなく、日常生活に支障をきたすほど過剰に汗が分泌され、医学的に適切な治療が可能な「疾患」です。 かつては有効な治療法が限られていましたが、2020年以降、ワキ汗や手汗に対して高い効果を持つ保険適用の塗り薬が相次いで登場し、皮膚科での治療が標準化されました。
当院では皮膚科専門医が、ガイドラインに基づいて、一人ひとりのライフスタイルに合わせた専門治療を提供いたします。
多汗症とは
発汗は本来、体温を調節するための重要な生理現象です。 しかし多汗症では、この調節機能の範囲を大幅に超え、気温や運動とは無関係に大量の汗が出ます。
発症のメカニズム
私たちの体にある「エクリン汗腺」から汗が出る命令は、自律神経の一つである「交感神経」から伝わります。このとき、神経の末端から「アセチルコリン」という伝達物質が放出され、汗腺の受容体に結合することで発汗が促されます。
多汗症の方は、このアセチルコリンの放出が過剰になっているか、あるいは汗腺がこれに対して過敏に反応している状態であると考えられています。
多汗症の種類
多汗症には大きく分けて2つのタイプがあります。
- 原発性局所多汗症(げんぱつせいきょくしょたかんしょう):
特定の病気があるわけではないのに、生まれつき、あるいは思春期頃から特定の部位(脇、手、足、顔など)に多量の汗をかく状態です。 - 続発性多汗症(ぞくはつせいたかんしょう):
他の疾患(甲状腺機能亢進症、糖尿病、更年期障害など)や、服用している薬剤の副作用によって全身または局所に汗が増える状態です。
当院ではまずどちらのタイプであるかを診断し、隠れた病気がないかを見極めることから治療を開始します。
原発性局所多汗症の診断基準
以下の項目のうち、2項目以上が当てはまる状態が6ヶ月以上続いている場合、医学的に「原発性局所多汗症」と診断されます。
- 最初に症状が出たのが25歳以下である。
- 左右対称に汗をかく。
- 睡眠中は汗が止まっている。
- 週に1回以上、激しい発汗がある。
- 日常生活に支障が出ている。
- 家族に同じ悩みを持つ人がいる。
重症度により、医学的治療を開始するか判断します。
部位別の症状とQOL(生活の質)
多汗症の多くの方が深い精神的苦痛を感じており、それが社会活動の制限に繋がっています。
① 腋窩(わき)多汗症の悩み
- お気に入りの色の服が着られない(グレーやブルーのシャツを避ける)。
- 冬場でも厚着をすると汗ジミができ、周囲の目が気になる。
- 1日に何度も着替えや制汗剤の使用が必要で、集中力が途切れる。
② 手掌(手のひら)多汗症の悩み
- 書類やノートが湿って破れる、ペンが滑って書きにくい。
- スマホの画面反応が悪くなる、パソコンのマウスがベタつく。
- 握手や手をつなぐことを極端に避けてしまい、対人関係に消極的になる。
③頭部・顔面多汗症の悩み
- 人前で話すときだけ滝のような汗が出て、恥ずかしい思いをする。
- メイクがすぐに崩れてしまい、外出を楽しめない。
- メガネが汗でずり落ちる、視界が遮られる。
保険診療による治療
多汗症治療は「塗り薬」から開始するのが第一選択です。
ワキ汗治療
神経の指令をブロックする「抗コリン薬」の塗り薬です。
エクロックゲル(5%ソフピロニウム):
1日1回、専用のアプリケーターでワキに塗布します。手が汚れず、継続しやすいのが特徴です。12歳以上が適応です。

- ラピフォートワイプ(2.5%グリコプロニウム):
1日1回、使い切りのシート(ワイプ)でワキを拭き取ります。 9歳以上から使用可能です。

ワキ汗重症例:ボトックス注射
外用薬で効果が不十分な「重度」のワキ汗に対し、ボトックス注射治療が可能です。
- 効果::1回の施術で約3〜5ヶ月間、強力に発汗を抑えます。 夏前の3月〜4月頃の受診が特にお勧めです。
- 値段:保険適応の場合、3割負担の方で約2万3千円程度です。

手汗治療
- アポハイドローション(20%オキシブチニン):
就寝前に手のひらに塗布し、起床時に洗い流します。12歳以上が適応です。

全身の汗への内服薬
プロバンサイン:
アセチルコリンを抑制する飲み薬です。全身の汗を抑えたい場合や、頭部・顔面などの外用薬が使いにくい部位に検討されます。口の渇きや便秘などの副作用が出やすいため、医師と相談しながら慎重に使用します。
自費診療
手のひら・足の裏
ボトックス注射:
麻酔クリームを使用したのちに針を用いて注入するほか、当院では「キュアジェット(無針注入器)」を用いて痛みを抑えて導入することも可能です。
[キュアジェットのページを見る]
よくあるご質問(FAQ)
Q. 子供でも治療は受けられますか?
A. はい、可能です。 外用薬のラピフォートワイプは9歳から、エクロックゲルやアポハイドローションは12歳から保険適用となります。 学校生活でのストレスを軽減するためにも、早期の相談をお勧めします。
Q. 塗り薬の副作用はありますか?
A. 抗コリン薬の特性上、口の渇き(口渇)、光をまぶしく感じる、といった症状が出ることがごく稀にあります。 また、塗布部位のかぶれが生じる場合もあるため、専門医が肌状態を見ながら調整します。
Q. 他の場所の汗が増えることはありますか?
A. 手術(ETS)後の副作用として知られる「代償性発汗」ですが、塗り薬やボトックス注射では起こることは稀です。
Q. 治療を受ければ完全に汗は止まりますか?
A. 治療のゴールは「日常生活に支障がないレベルまで汗を減らすこと」です。完全にゼロにすることは生理的に望ましくありませんが、多くの患者様が「生活が劇的に楽になった」と実感されています。
未承認医薬品等に関する表示
多汗症治療における「キュアジェット」の使用について、以下の情報を開示します。
- 未承認医薬品等: キュアジェット(CUREjet)は、日本国内において多汗症治療の目的で厚生労働省の承認を得ていない未承認医療機器・医薬品に含まれます。
- 入手経路等: 当院では医師の責任において、適正な輸入ルートを通じて導入しています。
- 国内の承認医薬品等の有無: 国内において腋窩多汗症用の外用薬(エクロック等)やボトックスビスタは承認されていますが、他部位への無針注入を目的とした承認医療機器は存在しません。
- 諸外国における安全性等に係る情報: キュアジェットは韓国KFDAの承認を取得しており、アジア圏を中心に安全に使用されています。国内未承認のため、副作用救済制度の対象外となります。
柏の葉キャンパス・柏・流山エリアで汗にお悩みの皆様へ
汗の悩みは、他人に相談しづらく、「体質だから仕方ない」と一人で抱え込んでしまいがちです。 生活の質を落とす多汗症は、皮膚科で治療できる時代です。ぜひお気軽にご相談ください。
監修:柏の葉スキンクリニック 院長 山下千聡 (日本専門医機構認定 皮膚科専門医)